2008-01-30

西鶴一代女

実はわたし。
長年、溝口健二が苦手でした。
池袋あたりの名画座で。
「元禄忠臣蔵」を最初に観てしまったのが、
そもそもの間違えでした。
この方ほど、当たりハズレの激しい監督はいません。
ワンシーン・ワンカットを多用するあまり、
アングルが高くなり過ぎる傾向があり。
そこん所がどうも気に喰わなくて長年、
溝口健二を否定しておりましたが。
パリの名画座で「西鶴一代女」を観た時から、
その認識を改めました。
フランス語タイトルは「OHARU」で。
フランス人たちと一緒に観る「OHARU」は、
まるで違う映画でした。
最初から最後まで笑いっぱなしなのです。
こちらもつられて笑いっぱなしです。
それまでのわたしはどうも、
溝口映画を真剣に見過ぎていた様です。
この方の映画は、
決して品のあるモノではなく。
ただのおバカ映画なんだと、
パリで再認識した次第で御座います。
水谷浩の作る巨大なセットの中で繰り返される、
すっとこどっこい絵巻。
溝口映画は、とてつもなく壮大なおバカ映画なんです。
多分。

イワモケ

2008-01-28

闇と沈黙の国

わたしはこの映画ではじめて、盲聾者(もうろうしゃ)。
つまり、
目も耳もダメな人々の事を知りました。
目が見えない人と、
耳が聞こえない人とは、
それぞれ個別に存在していると。
勝手に思い込んでいたので、
両方の能力を奪われた人がいるなんて、
信じ難かったです。
1971年公開の「アギーレ」などで有名なドイツ人監督、
ヴェルナー・ヘルツォークによるドキュメンタリー映画です。
残念ながら、
DVDは発売されていないようです。
ビデオは、あります。

イワモケ

2008-01-25

期限切れのパスポート

もうお話ししても、大丈夫でしょうか?
16年前の話ですから、時効でしょう?

「菊池」という映画をロンドンで公開する為に、
1ヶ月程渡英しなきゃいけなかったんです。

成田です。
エアチケットもあります。
パスポートも持っています。
さあロンドンだと、
出国審査所を通過しようとすると。
パスポートの期限が切れていますと言われ、
別室に連れて行かれました。

パスポートをよくよく見てみると、
1ヶ月程前に期限が切れています。
戻って手続きをし直す?
考えただけで面倒です。

で、
出国審査室で暴れました。
暴力じゃなくて、口で。

旅行鞄の中に入れていた、
自分が掲載されている海外の新聞記事を審査官たちに見せて。
わたしは有名(海外で)な映画監督である。
今回ロンドンで自作映画を公開する。
ここで足止めを喰らってロンドンに行けなくなると、
国際問題に発展する。
英国の日本大使館に連絡して確認してくれ、と。

審査官たちは非常に悩んで、相談していました。

15分程待たされた後、
手渡されたわたしのパスポート。
1往復だけを認める特別出入国許可の紙が、
ホチキスでとめてあります。

絶対に帰って来てくださいよ。
帰って来られないと、大変な問題になります。

もちろん帰って来ますよ、と。
出国に成功しました。

イワモケ

[追筆]
実は審査官たち、
何もウラ(電話確認)を取っらずに特別出入国許可証を発行しました。
おそらく、
わたしの事が相当面倒そうな男に見えたのでしょうね。
もう、時効でしょ?

2008-01-24

秋刀魚の味

1962年に公開された、小津安二郎の遺作です。
わたしは小津映画の中で、これが1番好きです。
東野英治郎が劇中。
「魚ヘンに豊と書いて鱧(ハモ)と読む」と、
言いながら鱧を食べるシーンがあります。
わたしはこのシーンで、鱧という食べ物を知りました。
初見当時高校生だったわたしにとって鱧は、
超大人の食べ物です。
脚本は「晩春」から13作連続の小津安二郎と野田高悟、
ゴールデンコンビです。
小津映画は「秋刀魚の味」で、
またひとつのピークを迎えたように思います。
悟りの境地とでも言いましょうか。
ゆったりとしていて、
それでいてすこぶるテンポの良い映画。
真似をしようと思っても、
なかなか出来るものではありません。
ピークで死んでゆける映画監督、
数少ないひとりだと思います。

イワモケ

2008-01-23

高橋新吉

NHKの教育で、
偶然見た「高橋新吉、自作を朗読する」の放送。
皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿
倦怠
額に蚯蚓這ふ情熱
白米色のエプロンで
皿を拭くな
鼻の巣の黒い女
其処にも諧謔が燻すぶつてゐる
人生を水に溶かせ
冷めたシチユーの鍋に
退屈が浮く
皿を割れ
皿を割れば
倦怠の響きが出る

と、
ご自身が朗読されていたのです。
それがもう、
スゲエ格好イイんです。
既にかなりのご高齢でしたが、
目だけはギンギンでした。
パンク爺さん、とでも言いましょうか。

「じょうじなまはげ」の主人公の名前は、
高橋新吉さんから頂きました。
なんの関係もないんですけど。

1987年にお亡くなりになられてますから、
もう21年になるんですね。

イワモケ

2008-01-22

恐竜100万年

1966年公開、
レイ・ハリーハウゼンの特撮映画です。
監督はドン・チャフィという方なのですが、
特撮監督の方が断然目立っている映画です。
わたしは小学生の頃、
テレビで観て衝撃を受けました。
詳しく調べてみましたら。
「ダイナメーション」と呼ばれる手法を使っている、
らしいです。
俳優の演技をスクリーン・プロセスに。
コマ送りで投影しながら、
それに合わせて人形を動かすものだそうで。
【スクリーン・プロセス】
カメラと映写機は連動しており、
カメラが1コマを撮影する時間と、
映写機が1コマを映写する時間は正確に一致する。
スクリーンの前にある、
自動車の実物大模型に乗った俳優たちは、
背後の半透明スクリーンが反射しないように照明され、
同スクリーンは映写機からの映像を写し出す。
この方法によって、
人形と人間の同時演技(例えばミニチュアと人間の格闘シーン)が、
オプチカル合成なしで可能となった。

だ、そうです。
わたしは実際に撮影をした経験がないので、
ピンときません。
オプチカルによる単純合成(人物と背景)よりも。
恐竜と人間の合成の方が馴染んでいるのは、
そういう理由だったのですね。
恐竜の動きはコマ撮りなんでしょうが、
素晴らしいデキです。

イワモケ

2008-01-21

棒つき人形劇

「冒険@アナログ島」という2時間番組でした。
棒つき人形劇の場合。
すべての台詞を事前に録音して、
現場で音声を再生しながら人形を動かしてもらいます。
人形の下(セットの裏側)にはテレビモニターが隠されていて、
人形使いの方々はそのモニターを見ながら演じています。
これも美術は佐々木記貴で、
棒つき人形劇なんて初めてでしたので。
ちょっとセットの寸法を間違えまして、
通常より小さかったようです。
登場人物も多く、全員集合の場面などは。
セットの裏側は人形使いの方々で、
ごったがえしの状態でした。
おまけに2時間番組ですから、
徹夜続きの毎日。
そんなこんなのある深夜。
ついに主役クラスの人形使いの方が突然、
激しく吐かれまして。
そのまま入院、
ということになってしまいました。
最後は丸3日、眠らなかったんじゃないでしょうか。
スタッフ全員、異常なハイテンション状態に陥り。
ずっと、笑いながら撮影していた記憶があります。
完成披露パーティーの夜、
声を担当してくださった平泉成さんもおいでになられ。
お子様と一緒に完成品を見て、
泣いたと聞きました。
イワモケ

[追筆]
主演の声は、
デビュー当時の仲間由起恵さんで。
完パケVHSを乃木坂にあるキャスティング事務所まで、
ご自分で受け取りに来られたそうです。
こんなに有名になるとは、夢にも思いませんでした。

2008-01-18

人情紙風船

1937年に公開された、天才監督山中貞雄の遺作です。
はじめて観たのは、映画専門学校生の時です。
18でした。
当時のわたしにとっては、衝撃的な冒頭15分で。
こんなリアルな時代劇があるったのかと、
本当にびっくりしました。
それまでは、ちょんまげ映画など。
まったく興味がありませんでしたが、
この映画を観た影響で古典芸能。
特に、古典落語を読むようになりました。
原作は河竹黙阿弥作の歌舞伎狂言らしいのですが、
冒頭15分が特に好きなわたしは。
「らくだ」や「黄金餅」など、
死人を扱った落語を強く連想してしまいます。
あの冒頭は、何度見ても素晴らしいです。
とても古い映画ですから、
画質と音の状態。
あまり良くありませんので、
若い方は敬遠しがちだと思います。
しかししかし。
折角日本に生まれたんだから、
これは絶対に観なきゃだめです。

是非是非1度、試してみてください。
もちろん、
DVD発売されています。

イワモケ

2008-01-17

精神安定剤

これは、わたしが漫画家時代に出版した単行本です。
発売して2ヶ月だか3ヶ月後だか(記憶が曖昧です)で、
出版社が倒産するという悲劇の単行本です。
そういえば、印税ってもらえたのかなあ?
覚えがないなあ。

先日、
ある友人の事務所に遊びに行った時。
本棚にあるこの本を発見して、頁を捲ってみました。
そしたら、自分で言うのもナンなんですが。
とてつもなく面白くて、最初から最後まで読んでしまいました。
自分で描いておいて、ヘンな話ですけど。
20年前の事ですから、他人事です。

この本、わたし。
持っていないんです。
発売当初は手元に10冊程あったんですが、
毎年毎年2冊3冊となくなり。
気づいたら、1冊も手元になくなっていました。
うちに遊びに来た友人たちが、ちょっと貸してと。
持ち去ったのですが、その後。
1冊も戻って来ていません。

この本に掲載されている漫画は、
いわゆるエロ漫画誌で連載していたものばかりです。
性描写にはとてもうるさいのですが、
他の表現はノーチェックで。
好き放題描かせてもらっていました。
これはもう、
「表現の自由」を通り越して「自由すぎる表現」です。
なんの打ち合わせもせず、
こちらの描きたいものを勝手に描いて原稿料を頂いていました。
若いもんパワーです。
今、この歳でこれを描けと言われても描けません。
若い時にしか出来ない事と、歳を喰わないと出来ない事。
ありますねえ。

イワモケ

[追筆]
発売当時。
本当に精神安定剤を服用されている方々から、
多くのファンレターを頂きました。
ファンレターのお返事は書くように努力していましたが、
どうお返事したら良いのか困惑するものばかりでした。
タイトルは「精神安定剤」ですが、
そっち方面の本ではありません。

2008-01-16

地獄

わたしが漫画家をやっていた頃の話ですから、
20年程前ですかね。
「ブルータス座」という特殊映画上映会を
ブルータス編集部のイシクマという人が、
主宰しておりました。

1948年に東宝を公職追放された円谷英二氏が、
自宅に特殊映画技術研究所を設立した特殊映画ではなく。
ドラマツルギー的、特殊映画という意味です。

そこで始めて、中川信夫という監督を知りました。
強烈な出会いでした。
日本にこんな映画があったのかと、
驚嘆いたしました。

1960年公開の天知茂主演映画です。
天知茂は同郷で、高校も一緒です。
つまり、わたしの先輩なのです。
関係ありませんけど。
すじは極めてシンプルです。
いろいろあって、結局。
登場人物全員、死にます。
全員で、地獄に行きます。
そして、いろんな責め苦で痛めつけられます。
ただそれだけの映画です。
世界中探しても、こんな映画はありません。
正真正銘の特殊映画です。
DVDあります、興味があれば是非。

イワモケ

2008-01-15

33年前の大罪

中2の夏休み、
当時友人たちとバンドを組んでいたわたし。
どうしてもベースとアンプが買いたくて、
夏休みにアルバイトをすることにしました。

とは言え、
ベースとアンプを買う為には10万円近いお金が必要です。

そこで、ドカチン(土木作業員)をやる事にしました。
父親の友人が建築会社の社長をしていましたので、
そのコネで中学生のわたし。
ドカチン、デビューです。
日給は7千円、中学生のバイトとしては破格です。
2週間働けば、目標達成です。
仕事は公園の造成作業でした。
鼻の赤いおっちゃんたちは優しく。
腰を悪くするから、あんまり真剣にやるなと注意され。
なまぬるーい仕事で、まったく疲れませんでした。

ある朝、
「今日は遠出すっから乗りな」
と言われ。
トラックの助手席に座りました。
トラックの荷台には、
山積みにされた古タイヤがあります。
トラックで走ること2時間近く、
山を切り開いた造成地に到着しました。
今日は古タイヤを穴に埋めるの作業だと言われ。
おっちゃんとふたりで大量の古タイヤを、
大きく掘られた穴に並べ続けました。

夕方には作業は終わり、
空のトラックで帰りました。
帰りの車中、
おっちゃんが教えてくれました。
さっき捨てた古タイヤの上に土をかぶせてな、
キレイにならしたら家建てんだ。
何も知らずにな、その家を買うヤツ。
かわいそうだな。
まあ、俺には関係ないけど?と。
ダメだろう?
家が傾くだろう?

それから、ずっと気になっているんです。
わたしが埋めた、古タイヤの上に住んでいる人のことが。
あれから、どうなってんだろう?

しかし、
まったく思い出せないんです。
そこがどこだったのか。
愛知県であることは、確かなんですけど。

イワモケ

2008-01-14

奇跡

先日、
BSで偶然観る事ができました。
30年振りの再会です。
1955年に公開されたデンマーク映画で、
監督はデンマーク映画の巨匠・カール・ドライヤーです。
電気屋さんにあるアレと、同姓同名ですがこちらが本家です。
この映画、信仰(キリスト教)によって死んだ奥さんが生き返るという。
あり得ない話なんですが、
カール・ドライヤーの淡々とした客観描写の積み重ねでもって。
あり得ない話が、あり得るように見えるから不思議です。
巨匠の力量に脱帽ですね。
30年振りに観ましたが、
面白かったです。
カール・ドライヤーについては、
ポール・シュレイダー(「タクシードライバー」の脚本家)著。
「聖なる映画」という評論集に詳しく、
そして鋭く書かれています。
絶版になっていますが、
漁れば手に入ると思います。
この本は映画を志す人にとって、
バイブル的評論集です。
是非入手して読むよう、
強くお勧め致します。
「奇跡」はDVD-BOXのみの発売で、
定価2万4千675円と高価です。
ちょっと、手が出ません。

イワモケ

2008-01-11

Blogger

外人ブログを漁っていたら、
このBloggerでブログを書いている外人さん。
約8割。
Bloggerなんて聞いた事もなかったんですが、
調べてみたらこれが面白い。
Bloggerは1999年に設立されたらしいです。
2003年2月にGoogleによって買収されて、
無償サービスになったそうです。

で。
なにが面白いって、
カスタマイズし放題なんです。
他のブログも比較検討する為に試してみましたが、
これだけカスタマイズ可能なブログって。
日本のメジャー系じゃ、
ないんじゃないでしょうかねえ?
ブログなんてバカらしいと思って、
今まで手を出しませんでしたけど。
これだけカスタマイズできると、
そりゃもう面白いですよ。

ただし。
視覚的に操作ができないという欠点はありますが、
ソースをいちいち書き換える必要があったり。
また、
今時は当たり前のトラックバック機能がなかったり。
まあそんな、
今時じゃない所が好きだったりするのですが。

興味がある方は、
「クリボウの Blogger 入門」
こちらを読んでみてください。
とてもわかりやすく、解説してくださってるので。
参考になると思います。

イワモケ

2008-01-10

ある映画監督の生涯

1975年に公開された、新藤兼人による溝口健二の記録映画です。

これはもう、何度観ているかわかりません。
とにかく、面白い。

田中絹代、木暮実千代、京マチ子、香川京子、若尾文子、
山路ふみ子、浦辺粂子、乙羽信子、山田五十鈴、森赫子、
入江たか子、中野英治、中村鴈治郎、柳永二郎、
進藤英太郎、小沢栄太郎。
溝口映画に登場する、名優ばかりです。
彼等のインタビューも興味深いのですが、
製作サイドから語られる溝口健二話がとにかく興味深い。
一癖も二癖もある昭和の映画人たちが、大集合です。

大プロデューサー、永田雅一。溝口映画の名脚本家、依田義賢。
溝口組の大物助監督、増村保造。
天才カメラマン、宮川一夫。
残念ながら既に故人となり、
証言を聞けなかった美術監督の水谷浩。
これはDVDも発売されています、是非1度観てみてください。
とにかく、面白いですから。

イワモケ