2013-05-20

丹波BS~飛龍山~雲取山~鴨沢BS

山と高原地図23奥多摩、
この地図の左隅にあるのが飛龍山(2077m)。
こんな恐ろしい山に登る日が来るなんて、
青梅線の河辺に越して来た2010年には想像すら出来なかった。

あれから3年、
すっかり青梅・奥多摩に馴染んでいる。
下北沢に20年住んで、
毎晩飲んだくれていた自分が今では信じられない。
4年前にタバコもやめて、
酒もさほど強く飲みたいと思わなくなった。

ここから立川あたりへ繰り出すくらいなら、
逆に奥多摩方面へ向かって山に登った方が健全だろう。
そうだそうしよう、
山へ行こうと。
山と高原地図23を頼りに、
最初に登ろうと試みたのが。
鳩の巣駅から大楢峠を抜けて、
御岳山へ向かう初級コース。

山登りは10年振りだけど、
このくらいなら平気だろうとひとりで登り始めてみたが。
あろうことか、
鳩の巣駅から大楢峠までの急な登りに鈍った身体が対応出来ず。
ギブアップして、
大楢峠から鳩の巣駅へ引き返すという大しくじり。

あの屈辱から3年、
体重も高校時代のベストウエイトに限りなく近づき。
10時間歩いても、
平気な身体に仕上がった。

さあ機は熟した、
山と高原地図23の最高峰・飛龍山へ行くぞ。

5月14日火曜日、
快晴。
10数人の登山客を乗せた午前7時の奥多摩発丹波行きバスは、
雲取山登山口である鴨沢BSで大半の客を降ろす。
バスに残ったのは、
大きな荷物を抱えた2人の青年と私のみだ。

そして我々は7時55分、
終点の丹波BSで降りた。
山梨県北都留郡丹波山村、
山梨県なのに山梨方面への交通手段はなく。
唯一あるのが、
奥多摩駅とを結ぶこの路線バスだけだそうだ。

バス停の前を中学生たちが通過して行くのを見て、
私は思わず笑ってしまった。
男子も女子も超ダサく、
その純粋培養さ加減は半端ない。
ほとんど東京圏であろうこの村の中学生たち、
行こうと思えば渋谷にだって原宿にだって遊びに行けるだろうに。
情報が氾濫するこの現代社会において、
このダサさは奇跡としか言い様がない。

この村の中学生たち、
高校進学時には街に出て一人暮らしをするのだろうか。
高校へ行くのも一苦労、
いろいろ大変そうだなと。
中学生たちの心配をしながら舗装された道をしばらく歩くと、
「サヲウラ峠こちら」の道標が現れた。
「熊出没注意」の看板が掛けられた高電圧を流せる鉄網のドア、
こいつを開けて登山道に入る。
電気柵が延々と設置されている、
この辺りには確実に熊がいるということなのか。

自分で付けた熊よけの鈴の音にイラつきながら、
ゆっくりゆっくり高度を上げてゆく。

丹波BSの標高が630mだから、
2077mの飛龍山まで1447m登る計算だ。

「先はとてつもなく長いぞ、
 スローリースローリー落ち着いて」と。
あえてスローなペースで登りながら振り返って下界を見たが、
あの青年たちの姿はない。
彼等は山登りではなく、
丹波川のキャンプ場へ行ったのだろう。

ゆっくりゆっくり登ったつもりだったが、
山と高原地図の表記時間より40分程早くサヲウラ峠に到着した。
地図には「サオウラ峠」と書かれているが、
「サヲウラ峠」が正しいようだ。

天気予報によると、
今日は最高気温が30℃近くまで上昇するらしい。
さすがに山は、
30℃ということはないだろうが。
この暑さで孵化したコバエがまとわりついて、
超うざいから先へ進む。

サヲウラ峠から40分程で、
熊倉山(1624m)に到着。
とはいうものの、
三角点と木にぶら下げられた手作りプレートがあるだけの。
なんの変哲もない山なので、
地図の確認を済ませてまた進む。

熊倉山からミカサ尾根をしばらく進むと、
緩やかな尾根道が急登に変わる。

岩と木の根が入り組んだ足場の悪い道を、
休み休み登り切ると。
今度は前飛龍(1954m)へと続く、
露岩の急登だ。

両手を使って、
慎重によじ登る。
左手に薄っすら富士山が見えるが、
ホントに薄っすらで見応えなし。
冬のくっきり富士山を見てしまうと、
春と夏は登るのをやめようかと真剣に思う。

もちろん日が長くて、
長時間歩くのには最適なんだけど。
澄み渡るあの絶景じゃないと、
幸福な気分に浸れない。

前飛龍の岩のてっぺんにのっかって写真を撮っていたら、
本日初の登山者と遭遇。
前飛龍のてっぺんから挨拶したが、
なぜか無視された。
女性は100%挨拶するが、
男性は時々無視をする人がいる。
別に返事を期待して挨拶しているワケではないが、
返事がないのはやっぱりちと寂しい。

さあ飛龍山は目と鼻の先と、
勢い良く歩き出してみたんだが。
歩けども歩けども、
目指す頂上は現れない。

結局、
到着予定時間を20分程オーバーした12時20分。
登山開始から4時間20分で、
なんとか飛龍山頂に到着。
飛龍山はさぞ見通しの良い山で、
きっと素敵な美景が拝めるだろう。
というのは完全な思い込みで、
山頂にあるのは「飛龍山」と書かれた傾いたプレートのみ。

360度木々に覆われていて、
眺望は甚だよろしくない。

よくよくその傾いたプレートを見つめてみると、
「日本百名山」ではなく「山梨百名山」とある。

ああ騙された、
高いばっかで最悪な山だった。

出発前にどんなものかと、
「飛龍山」でネット画像検索してみたら。
ヒットしたのは、
傾いたプレートの前で写された記念写真ばかりだった。
その中の複数枚が、
60以上70未満の男女混合チームの集合写真。
登り切った今、
改めて驚愕するが。
この急登を登り切る老人たちって、
どんだけ元気なんだアンタたち。

山頂にはベンチもないし、
相変わらずコバエが超うざいしで。
飯も食わずに、
北天のタル方向へ下山開始。
この標高なら熊は平気だろうと、
耳障りな熊よけの鈴も外した。

青梅・奥多摩ではあまり見掛けないデザインの橋をいくつも渡り、
北天のタルへ到着すると。
大きな荷物を背負った青年が、
三ツ岩と呼ばれる巨大な岩に寄り掛かって休んでいた。

この青年は先程の男性とは真逆に、
とても清々しい挨拶をしてくれた。
疲れた時に見知らぬ人と挨拶を交わすと、
少し元気になるのはなんでだろう。

北天のタル、
ここも冬の空なら美しんだろうけど。
今日は霞んで、
ぼんやりしている。

「それではお気をつけて」と、
大きな荷物を背負い直した青年が。
別れの挨拶をしながら飛龍山方向へ進むと、
私は「は~い、そちらこそ」と返し。
広げていた地図を戻して、
雲取山方向へと歩き出した。

パンダが好きそうな新しい笹が生い茂る、
奥秩父主脈縦走路をひたすら歩き続ける。

何か得体の知れない強い視線を感じて思わず立ち止まったら、
鹿が私のことをじっと見つめていた。
全然逃げようとしないので、
写真を2枚撮った。
アングルを変えてみようと、
少し歩いてカメラを構え直したら逃げられた。
あんなに逃げなかったところをみると、
好奇心の強い子どもの鹿だったのかも知れない。

雲取山には2000頭の鹿がいるそうだが、
これは25年間禁猟した結果らしい。
増えた鹿たちの食害が、
深刻な自然破壊を招いているらしくて。
毎年毎年、
ある程度の数は殺し続けなければならないそうだ。
だがしかし、
こうやって間近に鹿を見てしまうと。
「そうだそうだ、殺せ殺せ」とは、
なかなか言えないワケで。

まあ、
門外漢がいくら考えても正しい答えは出ないだろうと。
ある意味、
問題を棚上げして考えるのをやめてしまうと。
また別の鹿が登山道に佇んだまま、
じっとこちらを見ている。

私が驚いて立ち止まると、
鹿も急にぴょんぴょん跳ねながら逃げて行った。

ああ鈴ね、
熊よけの鈴を外したからやたらと遭遇するのね。
まあ熊と猪以外ならウエルカムだなと思いながら進むと、
更にもう1頭の鹿と遭遇した。

午後2時過ぎ、
雲取山への登り口である三條ダルミに到着。
鴨沢BSの終バスは19時8分だから、
あと5時間ある。

雲取山の避難小屋で、
登山靴を脱いで休もう。
先日購入したGORE-TEXの登山靴は、
ひどい靴擦れもなくここまで快調だが。
靴の中に入ってしまった、
小石やら枯葉やらを取り除きたい。

さあ最後の登りだぜと、
気合を入れ直して歩き始めたが。
この登りが長いの長くないのって、
気絶しそうになる。

登っている時は足元だけを見続け、
登っては休み登っては休みを繰り返す。

そうやって騙し騙し、
一歩一歩確実に前へ進んで行くと。
遂に雲取山の、
見覚えのあるプレートが現れた。
突然山頂が出現するから、
三條ダルミからのアタックの方が好きかも知れない。
そう思いながらしばらく、
正規ルートである小雲取山からアタックする登山者たちを眺めていた。
修理が済んでいたら、
避難小屋脇にあるトイレで小便をしようとのぞいてみたが。
相変わらずトイレは故障中で、
おまけに今日はハエの大運動会だ。

この避難小屋に泊まる人、
トイレはどうしてるんだろう。
雲取山は好きな山のひとつだが、
トイレ問題が深刻だ。

すっかり尿意も失せ、
避難小屋で登山靴を脱いで遅い昼食を済ませた。

15時10分、
登山靴を履き直して詰め直した荷物を背負う。
19時8分の終バスまであと4時間、
ゆっくり下りても余裕で間に合うだろう。
終バスに乗り遅れる最悪は無さそうだから、
のんびり富士山でも見ながらと思ったが。
いつの間にか広がった雲が、
富士山を完全に覆い隠していた。

ポツポツと小雨も降り出す予想外の空模様、
のんびり下りようと思ったけどのんびりもしていられない。

100均のビニール合羽を取り出して羽織ってみたが、
小雨は1時間程でやんだ。

西日に照らされた新緑が眩しい、
ほんの5ヶ月前に長靴でここを下った時とは全く別の景色だ。

ここまで快調だった新しい登山靴だが、
下りになって急に足先が痛む。

避難小屋で履き直した時、
下りだからアソビがないようにと強く締めた。
それがいけなかかったのだろうか、
下る度に激痛だ。
登山靴を買い直したのも、
主に下り対策だったのに。
この結末に落胆しつつ、
中敷きをもっとクッション性の高いものに替えてみようかと。
登山靴改良計画案に、
思いを巡らせながら下り続けていると。
1頭の鹿が登山道を塞ぐように、
じっと私のことを見つめたまま佇んでいる。
写真を撮ってやろうと、
カメラを身構えると逃げてしまった。

足先の痛みに耐えながら、
鴨沢BSに到着したのが。
出発から10時間15分後の18時15分、
バスが来るまで1時間近くあるけど致し方ない。
幸いにもバス停近くにサントリーの自販機があったので、
ペプシでも飲んでスカッとしようと自販機の前に立つ。

ペットボトルはなく、
全ての商品が缶入り飲料だった。

小銭を投入してペプシのボタンを押そうと手を伸ばすと、
何故かふたつあるペプシだけが売り切れている。
CCレモンとセブンアップ、
散々迷った挙げ句にセブンアップを選び。
蓋を開けて飲んでみたら、
飲み口の所が臭い。

私の口が臭いのか、
缶が臭いのか。
飲み口の所に鼻に近づけて確認すると、
やっぱり犯人はこの缶だった。

不安になって賞味期限を確認すると、
2013年9月と印字されている。
ウエットティッシュで飲み口を拭き、
飲み直してみたけどやっぱり臭い。

おそらくこれは、
なんらかの原因で缶が酸化して臭いのだ。
インド人みたく飲み口に口を付けないで飲んでみようと試みるが、
どうもうまく飲めない。
結局全部飲み切れず、
半分程飲んで捨てた。

炭酸が スカッと上げる 尿酸値

イワモケ

JR青梅線・奥多摩駅→バス→丹波BS→サオラ峠→50分→熊倉山(162m)→前飛竜(1954m)→飛龍山(2077m)→北天のタル→雲取山(1937m)→雲取山避難小屋→小雲取山→奥多摩小屋→ブナ坂→七ツ石小屋→堂所→小袖乗越→鴨沢BS→バス→JR青梅線・奥多摩駅
距離=25.8km 最大標高差=1502m
[登山時間=約10時間15分]

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