2012-01-03

初日の出

午前3時35分、
「武蔵御獄神社初日の出号」に最寄り駅の河辺から乗車する。
車内には山ガールと山親爺、
へべれけ朝帰りと初詣に向かうらしき大学生風の若者たちで混み合っていた。
午前3時57分、御獄駅に到着。
改札を抜けて、バス乗り場に向かうと長蛇の列。
すし詰めのバスに揺られて、なんとか滝本駅に到着。
ここからまた、すし詰めのケーブルカーに乗って。
御岳山駅に到着したのが、午前4時35分頃。
御獄神社の脇を抜けて、いよいよ「奥の院周遊コース」に入る。

さあヘッドライト点灯して、いざ大岳山へ。
と意気込んでみたが、本当に真っ暗で恐ろしくなってきた。
熊なんぞと遭遇したら、どうしよう?
熊ちゃん、静かに冬眠してておくれと祈りながら。
ひとり真っ暗な山道を進むと、5人組の登山者たちに追いついた。
ヘッドライトが5個あると、こんなに明るいのか。
こりゃあ有り難いと、このグループの最後尾にぴったりつき。
見知らぬお父さんと世間話などしながら進みますと、
徐々に登りがキツくなって来て急失速する5人組。
まあ、この辺りが潮時だなと。
「お先です」と5人組に別れを告げて、再びひとり旅。
ぐんぐんぐんぐん登って、ふと左手を見てみると。
眼下に広がるこの、百万ドルの夜景。
大岳山に登るのは2度目だが、こんなに夜景が綺麗だなんて。
昼間の登山では、想像も出来なかった。
カメラにこの素晴らしい夜景を収めたいところだが、
私のヘボカメラでは当然写せる筈もなく諦める。

更に暗い山道を登り続けると、
遠くからこちらに近づいて来るヘッドライトの光。
これがローソクの灯りなら、
「八つ墓村」だなとほくそ笑みながら進むと。
すれ違い様、「御岳山はこっちですか?」と尋ねられたので。
「はい、こっちです」と答えて別れたが、あの男性。
さて、どっから登って御岳山を目指しているのでしょう?
ホント不思議だなと、首を傾げ。
しばらく歩くとやっと、大岳山荘跡に到着。
ここまで来れば、もう着いたも同然。
一安心して水分補給していると、
張ったテントの前で焚き火をしている中年男性がひとり。
寒そうに身体を屈めて、コーヒー的なものを飲んでいた。
元旦の山登りは初体験だが、
ほんと色んな人がいるもんだと感心しながら更に進んで。
大岳神社脇を抜ければ、最後の岩登り。
この寒空に大汗かきかき、遂に登頂大岳山。
山頂には15名程の先客たちが、初日の出を撮ろうと。
広げた三脚にカメラを乗せて、東の空に向けて待ち構えている。
携帯電話を取り出して時間を確認すれば、午前6時10分過ぎ。
そのまま嫁に電話してみたら、何故か通じた。
ソフトバンクは全然ダメという悪評をよく耳にするが、
大岳山で電話が通じれば大したもんだ。

嫁に無事だと報告を済ませ、
彼女に準備してもらったホットレモン。
こいつを飲んで温まっていると、
たまたま座った岩の真っ正面。
うっすらこう、富士山が見えるじゃないか。
「山の神様、ほんの一瞬でいいから。
雲を除けて初日の出を拝ましてくださいまし」と、
本気で祈っている先客たちの声。
これはいい席を確保した、今年はどうも雲が邪魔をして。
初日の出はムリっぽいから、初富士を楽しもう。
それからじーと、
美しい富士の山を見つめて日の出待つ。
さっきまで大汗かいていた身体はすっかり冷え、
ホットレモンをおかわりして暖を取る。
おそらくこの山頂、氷点下6℃くらいじゃないのかな?
振り返って、周囲を見回してみると。
15名程だった先客たちがいつの間にか、
倍程に膨れ上がっていた。
男9、女1の割合。
山ガールたちはきっと皆、日の出山ですね。

午前6時30分過ぎ、東の空は徐々に明るくなったが。
やっぱり雲が邪魔をして、初日の出が見えない。
私は真正面に見える富士山を撮ろうと、何度もカメラを構えていたが。
突然、バッテリー切れマークが点灯。
充電して来たばかりのバッテリーなのに、何故?
あり得ないんだけど?
こんな大事な時に、カメラが使えないなんて。
きっと寒さのせいだろうと、バッテリーを取り出して。
手でこすって温めたら、少し残量が増えた。
広角のままだと撮影出来るけど、
ズームを使うと途端にシャットダウンする。
まったく正月早々、ツイてないぜ。
初日の出も拝めないし、カメラは絶不調だし。
これ以上ここに居ても仕方がないから、下山しようと。
立ち上がったのが、午前7時過ぎ。
岩場を下り、
大岳神社まで戻ると不思議な朝日が神社を照らしていた。
そうだったのか、この大岳神社は初日の出神社だったのかと。
感心しながら、更に下山する。

先日、
「登山詳細図・奥多摩東部」という新しい山の地図を購入した。
「山と高原地図」には掲載されていない(もしくは点線でしか掲載されていない)
ルートがいくつもあって、今日はこれを試そうと思う。
という訳で途中、「サルギ尾根」へ入って。
なんとなく、「上高岩山」の展望台に着いた。
ホントなんとなく着いた展望台だったが、これが大当たり。
360度近い眺望の展望台で、超素晴らしいのに誰もいない。
来年はここで初日の出を見た後、大岳山に登って初富士を見よう。
そうだそうしようと、カメラを取り出して素晴らしい眺望を撮影し始めたら。
どういう訳か、ズームも問題なく使えて。
すっかり、カメラの調子が戻っていた。
なんだったんだろう?
大岳山の呪いだったのか、ホント訳がわからない。
ここから「ロックガーデン」まで下る、謎のコースを試してみる事にしたのだが。
これがもう、とんでもない悪路で笑ってしまった。
随所に鎖と梯子が用意されていて、整備はされているのだが。
急勾配過ぎてホント、笑ってしまう。
いつか元気のいい夏の日に、この登りを試してみよう。

どうにかこうにかロックガーデに辿り着いて、
天狗岩を右手に御岳山へ戻ることにする。
元旦の早朝に何故か、ロックガーデンを歩いている。
不思議な感覚に浸りながら、凍った小川を写真に収めていると。
「おめでとうございます」と、声を掛けられた。
こちらも「おめでとうございます」と、挨拶したが。
見知らぬ人に、あけおめ挨拶するのって。
ホント、山ならではだと思う。
街でいきなり、
知らない人に「おめでとうございます」と声を掛けても。
頭のおかしい人だと思われて、無視されるだけだろう。
でもね、知らない人に。
「おめでとうございます」と挨拶するのって、悪くないぞ。
広めよう、知らない人におめでとうの挨拶ってかッ?

なんてんで更に進み続けると、ゴソゴソゴソゴソと大きな物音。
驚いて、山の斜面を見てみると。
私に遭遇してびっくりしたらしい子熊が、
斜面を駆け下りて行くのが見える。
恐ろしい、冬眠していないじゃないか。
子熊で良かった、親熊じゃあひとたまりもないぞ。
正月から顔面血だらけで、病院送りだ。
しかし、御岳山のこんな近くに熊がいるなんて。
油断大敵、熊注意。
注意一秒、怪我一生ってかッ?

うーんやれやれ困った、
五反田から毎年初詣に訪れる美術の佐々木先生と。
その内縁の奥さんで、演出家の八代さん。
11時頃、御獄の商店街で待ち合わせしているんだけど。
まだ、9時前じゃないか。
この後、日の出山にも登って下りてで11時前の計算だったが。
さすがにもう、くったくた。
真っ暗闇の登山って、明るい登山の倍疲れるな。
しばらく平尾平展望台で休憩して、
日の出山に登ろうか悩んでみたが。
やっぱりもう、登る体力が残ってないみたいだから。
御岳の集落でも散策して、
時間をつぶそうとぶらぶらあてもなく歩く。

しかし皆さん早起きですね、
元旦の朝っぱらから御岳山に来るは来るはの大盛況。
おそらくきっと、
高尾山はもっと大変な事になってるんでしょう。
山が流行るのはいい事なのか、悪い事なのか。
まあ、山の人はマナーが大変よろしいから。
いい事なんでしょうね、海が流行るより。
などなどと、写真撮り撮り散策していると。
午前10時過ぎ、
佐々木先生から「ケーブル駅に到着」との電話です。
御獄神社の入口で待ち合わせて、ベンチに腰掛けて待つ事30分。
皆さんが大変苦労する、ケーブル駅から御獄神社までの急登り。
やっぱり高血圧先生は遅かった、
「遅いよ先生、時間掛かり過ぎ」と文句をひとつ。
私は概ねクリスチャンだから、お二人で参拝して来てもらって。
佐々木先生行きつけ、「蕎麦処・紅葉屋」さんへ向かう。
もうなんだか知らないけど、
お腹がぺこぺこだから思わずカレーライスを頼んでしまったら。
「ここは蕎麦が美味しいんだから、
蕎麦食べなきゃダメだよ」と注意され。
佐々木ご夫妻の頼んだ、
味噌田楽とざるそばとをビールのあてにして。
ちっちゃいその、新年会です。

ボンカレーの味にそっくりなカレーライスを平らげて、
すっかり満腹大満足。
佐々木ご夫妻とは、ケーブル駅前でお別れして。
私は大塚山方面からとぼとぼ、下山です。
今日はひとつ、
大塚山の電波塔を左に折れる。
「鉄五郎新道」というのコースを試してみようと、思います。
これも「登山詳細図・奥多摩東部」で発見したコースですが、
これまた大変な急斜面でした。

御前山から奥多摩湖へと続く急斜面とか、
本仁田山の恐ろしい急斜面とか。
それに匹敵する程の急斜面を何度も滑りながら、
格闘する事約90分。
想像以上に時間も掛かったこのコース、2度とないなと心に決めましたが。
ふと、途中で挨拶を交わしたおじさんを思い出す。
あの人は下から全部登って来たのだろうか、凄いな。
結構、涼しい顔して登ってたけど。
そうだ、これを登らなきゃ。
あのおじさんに、負けた事になるじゃないか。
機会があればもう一度、ここを登りきってやると静かに誓い直して。
青梅線の古里駅に到着したのが、午後2時過ぎ。

御獄駅へ午前4時に到着して、早10時間余り。
長い長い、私の初日の出の旅が終わりました。
正月早々、身体の節々が筋肉痛って。
ホント、なんて爽快なんでしょう。
朝から酒飲んで、ゴロゴロする不健康な人生よサラバです。
これに懲りず、毎年の習わしにしますです。
あー、疲れた。

イワモケ